【魔法公国ユレイカ-2】

 ユレイカの国土の半分を占めるエウレカの盆地の中央部には首都である十字都がある。この十字都を南北に縦断するように盆地に走る街道がユレイカ中央道であり、多くの旅人が大陸東部を南北に移動する際に利用する。
 輸送機関は乗合馬車もしくは徒歩であり盆地の南端と北端の国境に当たる部分に関所があり、ここで入国税もしくは国内滞在税を収めなければならない。金額はギルド共通貨にして銀貨二枚程度であり時期やそのときの経済状況によって左右される。一応、ユレイカ公国独自の貨幣は存在するが、実際に使われることはあまり無い。国内では観光業が主流であり、外貨との両替などを必要とする独自貨幣では便が悪いので、国内のほぼ全ての商店や宿泊施設でギルド共通貨と帝国貨幣で取引が行われる。
 ユレイカ公国の独自通貨であるユレイカ貨幣のうち、特にユレイカ金貨は生産数が少なく、装飾が美麗であり、美術品としての価値が認められているため、通貨としてではなくお土産品として敢えてユレイカ公国の貨幣を持ち帰る旅行者は多い。なお、レート的にはユレイカ金貨はギルド共通貨の金貨六枚分程度に相当するため安い買い物とは言い難い。
 十字都を東北に分断する道路は東のセントラルライン麓の牧場地帯と西のユレイカ第二の都市である盆地西町の結ぶ。十字都の人口が五千程度、盆地西町の人口が三千程度でこのふたつの都市に人口の八割が住んでいることになる。
 盆地西町には主に白銀連山から得られる水資源とエウレカ盆地の持つ良質の土壌で果樹栽培と稲作が行われる。陽柑のほぼ全てでこの街の近くで栽培されており、また徹底的に管理されている。ユレイカの税収の大部分が入国税と観光目的滞在税で占められるが一方で陽柑をはじめとした農作物の輸出にかかる関税も大きな税収源であるためだ。住民税や所得税、参政税なども税収源ではあるが、これらはあってもなくてもたいして変わらないぐらいのものにすぎない。特に住民税や所得税の税率は他の国に比べると極めて低い。
 盆地西町には、白銀連山で鉱物資源の発掘を行うドワーフがいくらか住んでいる。白銀連山の極東部に当たるユレイカ公国内の白銀連山地域では鉄と銀が主に採掘される。このうち銀には採掘に対してユレイカ公国自体からの採掘制限が課せられているが、鉄には課せられていないため、ドワーフはもっぱら鉄資源の採掘に励んでいる。とはいえ、わざわざ極東部までやってきて採掘しなければならないほど上質の鉄が出るわけでもないため、ここにやってくるドワーフは物好きと言えよう。ただし、銀に関しては採掘に制限が課せられているだけあり、上物の銀鉱脈が眠っている。また、魔導銀やクレリアが産出する地帯が確認されており、この地域は立ち入りそのものが禁止されている。一部のドワーフや人間による盗掘がわりと頻繁に発生しているが、そのほとんどが警察機構によって取り締まりを受けることになる。
 ユレイカの警察機構、すなわち治安警備部隊は軍の一部であり、将校団に属している。組織としては役割により細かく数十の部隊に細分化されているが、十分な人数が常に確保されているわけではなくいくつかの部隊を掛け持ちしたり、あるいは所属人数がゼロである部隊も存在したりする。そういう部隊の仕事は軍の別部署である諸処処理班が担当したりする。ユレイカの警察機構が優秀なためかユレイカの治安はかなり良い。
 しかしながら軍隊を持ってはいるが、これは形だけに過ぎない。軍に所属するほぼ全ての部隊が国内の治安活動に参加しており、対外的な侵略などから国を十分に守れるだけの戦力があるとはとうてい言えない。それには理由があり、隣接する帝国の軍隊は強大で、正直なところ帝国が本気で攻めてきたらどうしようもないため、あえて戦力を持たないというところに行き着いている。人口わずか一万の小国に帝国軍の精鋭師団一個大隊数千人を押し返せるわけもない。
 とりあえず、軍隊には魔法迎撃隊が存在しこれが国家の防衛戦力の全てである。人数は十数人。一流の魔法使いによる少数精鋭という建前だ。実際には帝国軍の魔導部隊に数も質も劣るというありさまであるが。
 そんなこともあり、"使徒"の存在は都市伝説ではあるが信じられているというよりはそうだったらいいなと国民は思っているというのが正しいのかもしれない。
 ユレイカ公国は独立国家であり、王国、帝国、共和国のどれにも属さずまた同盟関係にも無いが、地理的に近しい帝国と王国の法律に準ずる形の法律を持っている。また、光の血族会議に対する発言権こそ持ってはいないが、三国会議に少しだけ影響力を持ち、また光の血族会議及び三国会議の内容を基本的に批准している。
 帝国領内では奴隷制が認められているが、セリア王国では奴隷制を認めていない。奴隷に対してはユレイカ国はどちらでもなく中立を維持している。ただし、奴隷に対する過度な体罰などは認めていない。また、ユレイカ公国では治外法権を一切認めないため、他国の王族や大使であってもユレイカ公国内ではユレイカの法律に縛られる。
 変わった法律としては、ユレイカでは火の取り扱いに対する制約が厳しい。放火なんてとんでもない話で、火の不始末はおろか、不用意な火の利用さえも厳罰が科せられる。魔法に関しても、魔法で火を発生させることは原則禁じられている。
 一方で魔法に対する制約は薄い。人を傷つけたり何かを壊したりさえしなければ、魔法を使うことに対する制限はほとんど無い。この点だけは三国会議の決定である千里眼の制限や読心の制限などを批准していないため、ユレイカ国内では自由に使用できる。とはいえ、読心は多くの魔法学院で御法度とされているし、情報ギルドにおいても読心の利用は厳罰に課せられるため、ユレイカ国内でも読心の魔法を使用する人間は皆無であるが。
 

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