【魔法公国ユレイカ-1】

 ユレイカ公国は、大陸東部に位置する人口一万人程度の小国である。建国は古く大天争及び英雄戦争時代には既にユレイカ公国として存在した。帝国と隣接し王国からも近いユレイカ公国が建国以来帝国などの属領とならず独立を維持し続けたことはまことに不思議である。大陸東部で小国として大天争以前から存在し独立を守っている国家はユレイカ公国のみである。
 この国は大陸東部を縦に走る世界の背骨山脈(セントラルライン)と白銀連山に挟まれるように位置し、大陸東部においては、北部と南地域を結ぶ交通の要所として栄えてきた。また、山と山に挟まれたエウレカ盆地は穏やかな気候ながらも、位置的に四季が存在し観光客が多く訪れる。実際にユレイカ公国の約七割の住民が観光業に従事しており、また国の税収の多くを入国税及び観光関連で占めている。
 北は帝国領と接しているが、大天争以後は小競り合いなどは起こっていない。英雄戦争より領土拡張に邁進する帝国が南北交通の要所ためユレイカ公国に対して進軍しないのは"あり得ない"のではあるが、実際に無いものは仕方がない。事実、近年ではユレイカ公国は他のどの領とも交戦していない。
 国土の半分をエウレカ盆地で占め、残る部分がセントラルラインと白銀連山の山岳地帯および森林である。住民の大半は盆地にあるふたつの街に集まっている。白銀連山には豊富な鉱山資源があり、森林資源も潤沢にあるため、資源には困らない。山と山に挟まれるため気候的に雨は少ないが森林から流れ出るいくつかの河川が豊富な水を供給する。これらの水を使い盆地では果樹と稲の栽培が行われる。特に柑橘類の栽培が盛んで、ユレイカ原産の陽柑は上質の甘みで人気が高く、その加工品はセリア王国で珍重されている。取引価格は関税の関係では高くなるが、観光客として訪れれば、陽柑をはじめ豊富な果物がふんだんに振る舞われる。
 人口比率は当然ながら人間が八割を超える。東部海岸地域よりは離れているものの猫人もかなりの人数が居住しており、人口比率では一割近い。これは帝国に近い領の中ではずば抜けて多い。残りは物好きなエルフや白銀連山の鉱山資源目当てのドワーフだ。いずれにしても、ユレイカ公国は永住権を得るのも小国の中では簡単なので、様々な民族がごったがえしている。
 公国と呼ばれてはいるが、政治形態には公国ではない。政治に関することは三十人程度からなる議会によって決められる。議会員は持ち回りで議長を務め、この議長がユレイカ公国の首長であり、国家元首となる。もっとも、この議長自体は議員になれば順番に回ってくるポストであるので、国内での扱いは議員と議長で差があるわけではない。
 もともと大天争前の時代には、国家元首として選挙によって選ばれた"王"が統治するという形態を取っていたので、その名前が残っているのである。
 ユレイカ公国は議会が国家の運営を一手に引き受けているが、司法に関してはその権限を持っていない。司法には軽微罪状に対して警察組織が担当し重罪に対しては専門の委員会が存在する。委員会では法律を厳格に執行し、犯罪者に刑罰を科する。委員会は専任の十数人の審問官と数十人の民間人から一時登庸される人々からなる。とはいえ、重罪に相当する事件が多数発生しているわけではないので、登用される民間人は普段は自分の仕事に従事している。
 そして、警察組織及び軍隊を統治するのが将校団であり、議会、審問委員会、将校団の三種類の団体によって国が管理されている。また、特殊な選挙形式を持ち、政治の腐敗が極力発生しない構造になっているのが、歴史に埋もれずに国家として続いてきた大きな要因であるとされる。
 さらに、政治の腐敗を防止するのに一役買っていると思われているのが、情報ギルドの拠点支部が存在することである。猫人の情報ギルドの支部は世界中に存在するが、大規模な拠点支部は大都市にしか存在せず人口一万人の国、ましてや首都だけであれば人口五千程度の地方都市に存在する例など皆無なのである。 その情報ギルドの拠点支部が存在するため隠し事がしづらいというのである。猫人の人口比率がわりと高いのもその辺りに理由があるのかもしけない。
 いずれにしても、今までに大きな政治汚職や政治的な問題は起こっていない。そもそも、観光業が大成しており、住民への課税も少なくさらに資源も豊富で外部との戦争もないため、国民の政治への関心は極めて薄く、また為政者側も平和でさしたる問題もなく政争に明け暮れるわけでもなく、穏やかな気候も相まって国全体に緩い雰囲気が流れていること自体が最大の要因かもしれないが。
 ユレイカ公国の第一産業は観光業である。これが七割を占め、残りのほぼ全てを農業が占める。果物の栽培及び加工などである。魔法に関する産業があるわけでもなく、観光公国などと呼ばれる方が相応しく魔法公国などという旧い呼び名は忘れられて久しい。
 とはいえ、魔法公国という呼び名が全くのふさわしくないかといえばそうでもない。この小国が生き残ってきた理由も、政治的な問題が起きない理由も、使徒と呼ばれる魔法使いの集団によるものではないかとまことしやかに噂されている。実際に英雄戦争期の間に帝国からユレイカ公国への進軍記録が残されており、一節では精鋭一個師団が派兵されたともされる。当然ユレイカの小規模な軍隊程度では太刀打ちできるはずも無いのだが、その記録では進軍には失敗したとされている。それも使徒であった強力な魔法使いによるものだと考えられているのである。
 しかし、これは都市伝説として言われているだけであり真実であると信じている人は少なく、ユレイカ公国も公式に何度かこれを否定している。情報ギルドにおいても非公式ながらもこれを否定している。

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年6月  >>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293012345

お気に入り日記の更新

最新のコメント

日記内を検索