※下書きの下書き

【闇の妹-モンスターメーカー】

 8

 カスズの街は、ウルフレンドの大陸で最も繁栄している大都市のひとつである。住人はシャーズ族が大半を占め、ギルドの本部もここに置かれている。同じ大都市のブルガンディとはまた違った雰囲気を持ち、活気に満ちた街というよりは静かな街である。それでも、昼間の大通りの人の多さはブルガンディに引けをとらないが。
 港に入港したドローネたちは、折り返す便で去っていくロクサーヌを横目に街へと繰り出す。途中、港の係官の話によれば、ディアーネたちは昨日の午後にカスズ入りしたらしい。やはり、有名に王女戦士はひときわ目立つ。それはドローネたちにとっては相手の状況を掴みやすくした。
「ねぇ、なにかあてはあるの?」
 チチーナがドローネに言った。背に背負った槍以外に腰に長剣を下げている。それは港町で売られている安物ではあったが、ロクサーヌの剣を振り回しているうちに剣に少し興味が湧いたらしい。
「私の記憶が間違っていなければ、カスズの外れに古い教会があるわ。野宿するよりはマシだから、そこでよく野営をしていたの。今もあるかはわからないけど」
 カスズは大都市であるだけでなく、シャーズの貴族の街でもある。そのため、極めて物価が高い。港町の物売りや露天ならともかく、一晩の宿をカスズで求めるのはよほど路銀に余裕があるときにしか出来ない。
 ドローネはまるで何度も来たことのある道を通るように、カスズを抜けて枝分かれする街道を進んでいく。半日ほど進んだころに、ようやく森の木々に隠れるような打ち棄てられた白い建物を見つけた。シャーズは学芸の神ユリンを信仰してはいるが、その信仰心はお世辞にも高いとは言えない。町はずれや寒村にはには誰も来なくなった教会が見受けられる。そんな棄てられた教会のひとつが、ドローネたちの目の前にあった。
 ドローネはゆっくりと教会へと近づいていく。何かを感じて、沸き立つ思いが胸を締める。チチーナが踏み分けられた雑草を見ながら、誰かがこの付近に最近訪れただろう事実をドローネに囁くように伝える。
 教会の扉に手が届く場所までドローネは来た。胸の高鳴りがチチーナにまで聞こえてしまいそうなほどに大きくドローネの耳に届く。視界が狭くなり、教会の扉以外は目に入らない。チチーナの声も今のドローネには届かないだろう。
 ドローネは教会の扉を勢いよく開けた。

「姉さんっ!」

 ドローネは叫び声の近い大きな声、感極まった声を出して、駆け出す。チチーナが教会の中に視線をやると、長い髪の女性騎士と、その奥に大柄な男が見えた。
「よく来たわね、ドローネ」
 ドローネの姉、三姉妹の長女イフィーヌがドローネを迎える。両手を広げた姉に勢いよく飛びつくドローネは、その瞬間だけ闇の騎士では無かった。

続く。

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