※下書き

【闇の妹-モンスターメーカー】

 5

 ブルガンディはウルフレンド有数の大都市である。地中海の中心に位置するブルガンディ島は、ウルフレンド全体の交通の要所として、商業の中心として、大いに繁栄していた。人間族以外にも、様々な種族がこの地を訪れ、この地で様々なものを得て、或いは失ってきた。
 ドローネは港に下りると、大通りを通って目的の店に行く。メアリから教えられたとおりに、メモに目を通しながら進んでいく。
 昼下がりの大通りは活気に満ちていた。露天が並び、野菜を売る店、果実を売る店、何かよくわからないものを店頭に並べる店、いろんな店が大通りを飾っていた。
 チチーナが露天に惹きつけられるのを制止しながら、進むこと半刻。ようやく目当ての酒場に着いた。メアリ曰く、ここでガーラは踊り子として働いているとの事である。
「はぁー、人が一杯だね」
 昼の酒場は、酒場ではなく食事の場として混雑していた。あまり大きくない店には、所狭しとテーブルが並べられ、たくさんの人々でごった返していた。
 混雑の中の少ない空きテーブルに案内され、二人も遅めの昼食を取る。チチーナは真っ昼間っからエールを飲み干している。
 ドローネは店員にガーラについて尋ねたが、踊り子の仕事の時間は夜であり、思った通り今は居なかった。
「残念ねぇ」
 チチーナが満面の笑みで杯を空っぽにしていく。その細いウエストの何処にビア樽が格納されているのかと、ドローネは不思議で仕方なかった。
 食事もほぼ終わり、ほろよいのチチーナと食後の至福を満喫しているときに、急にチチーナが険しい顔になって、ドローネに目配せをする。
ドローネが目をやると、斧を傍らに置いた青い髪の女性と同じテーブルにつく桃色の鎧を着た女性が目に入った。
「ディアーネとカサンドラね」
 ドローネは声に出して言う。慌てて制止しようとするチチーナを無視して、さらに観察しながら言う。
「別に慌てなくても良いわよ。光と闇と言っても、こんなところでイキナリ戦うわけないわ。ここはソフィアのお膝元だけど、それ以上にブルガンディでは容易に争いごとを起こすわけにはいかないもの」
 チチーナが安心したようなガッカリしたような顔でディアーネのほうをじっと見ていた。
「・・・ちっ」
 チチーナの舌打ちを聞かなかったことにしてドローネ続けた。
「それに、あっちもこちらに気がついているみたいよ。カサンドラはまだ力を完全に取り戻してはいないのね。ま、王女戦士とはやり合いたくは無いわね」
「これはチャンスよ。アイツをぶっ倒して私が有名になる・・・」
 ぶつぶつ言ってるチチーナを無視して、ドローネは食後の紅茶を飲み干す。力を完全に取り戻していないとはいえカサンドラは聖騎士筆頭。何かリザレクションを授かっているのだろう。それは闇にとって必ず障害となる。聖騎士団はいまや半分も機能していないが、闇の軍団とて、バラバラだ。誰が何処に居るのか誰も把握できていない。
「さてと、行きましょうか。それともサインでもねだってくるの?」
 いつまでたっても、ディアーネに熱い視線を送っているチチーナをしょっ引いて、ドローネたちは酒場を出た。

 日が傾いて西の空を茜色に染める。遠くでカラスの鳴く声がして、街は静かに夕暮れに包まれ、夜を待つ。ブルガンディの中央広場では、露天がいそいそと店じまいをはじめ、街は夜の顔へと変わりつつあった。
 ドローネたちは、あれから街を巡り暇を潰した。闘技場でチチーナが飛び入りで稼いだ幾ばくかの賞金が路銀に追加されて、ドローネの憂鬱を少し解消した。
 昼と同じ造りの扉を開けると、そこは昼とは違う顔を見せる。空いたテーブルに着いた二人は、注文を済ませると、一段高い舞台の上で踊る女性たちに目を向けた。
「かんぱーい」
 また酒を飲んでるチチーナは放っておいた。舞台では数人の女性が肌の大部分を露出させ、踊りを踊っている。その中でもひときわ目立つ女性がいた。
 絶世の美女という表現がこれほどしっくりくる女性が他にいるだろうか。ドローネはそんなことを思った。踊り子たちの中で最も輝く彼女こそ、件のガーラそのひとである。
 別にドローネはガーラの踊りを見に来たわけではない。ガーラの本当の姿は、ウルフレンド随一の占いの腕を持つ魔術師である。
 店内は男共の歓声と口笛の音が響き、騒々しさを極めていた。女性の客はまばらでドローネたちは少し浮いていたが、それを気にする客は誰も居なかった。そして、酔っぱらっていない客もまず居なかった。
 騒々しさが少しずつ収まりを見せてきたのは、夜も更けたころであった。ガーラが退場し、店内から少し客が引いた。それでも、他の踊り子が踊りを続け、店内に響く歓声が止むことは無かった。
 ドローネは機を見て、チチーナを連れて奥に向かった。途中、それを止めようとする店員に、メアリから貰った紹介状を見せて、ガーラの控え室へと向かう。最も人気のある踊り子ガーラには個人用の控え室が用意されているようだった。
 扉を開けると、ガーラが椅子に座ってこちらを見ていた。
「あら、女性のファンなんて珍しいわね」
 ガーラが茶化したように言う。
「ごめんなさい、私たちは、貴方に占って欲しくて此処まで来たの」
「ふふ、わかっているわ。本業で求められるのって、なんだか久しぶりだわ」
 ガーラの表情に無邪気な笑顔が見える。この、本当の年齢は誰にもわからない魔女の踊り子は、長い時間を流れながら踊り続けてきたのだ。
「あなたはドローネだね。あなたのことはよく知っているわ。占って欲しいこともね」
 ガーラはそこで言葉を切ると、手元のテーブルに置かれたコップの中の水を喉に流す。コップが机に置かれた小さな音が小さな部屋に響き渡る。
「本来なら、高い高い占い料を頂くところだけど、ディオシェリルには借りもある。それに、アンタの人生ほど興味深いものも無いからのぅ。タダで占ってやる」
 後ろでチチーナが飛び上がって喜んでいるのがドローネには見えなくてもわかった。
「金や愛など踊っていればいくらでも手に入るが、踊るだけでは手に入らぬものもあるのがこの世の中の良いところじゃな」
 既に、そこには絶世の美女は居なかった。杖をつき、片目を失った老婆が皺の刻まれた顔で笑っているだけだった。
「金の代わりにアンタの髪の毛を一房頂こうかのぅ」
 ガーラはそう言いながら、後ろから水晶玉を取り出すと、小声で何事かを呟いた。
 ドローネは言われるままに髪を一房、手元の魔剣で切り取った。後ろで、何かを畏れるような顔しているチチーナに向かってガーラが、
「別に呪いをかけたりすんじゃないから安心しな。それがあれば私ゃアンタのことが何時でも見れる。アンタの人生ほど魅力的で興奮する演劇は他には無いからの」
 そこで、ガーラは話すのを止めて水晶玉に集中した。光も音もしないが、そこに何かが渦巻いてるのを二人はありありと感じた。ドローネは腰の魔剣が反応していることに気がついた。魔剣は、微妙に振動し、耳鳴りのような小さな音が魔剣から鳴っている。
「西へ向かえ。海を越えてシャルトン半島へ」
 ガーラが厳かな口調で言う。
「そこで、リザレクションは達成される。お前の愛する人の一人にも出会えるだろう」
 ドローネはぎゅっと目を閉じた。リザレクション達成への足がかりを得たのだ。そして、姉たちとの再会も。
「幼い紅い騎士がお前のライバルとなろう。急ぎなさい」
 ガーラはそれだけ言うと、水晶玉を後ろにしまった。杖を床に置き、二言三言呟くと、一瞬のうちに美女の姿に戻った。
「私が言えるのはそれだけね。せいぜい頑張りなさい」
 ガーラは若返ると声もまた別人のようになった。チチーナがその変化についていけずに戸惑いを隠せない。ドローネはガーラに礼を言うと、その場を立ち去った。
「ディオシェリルによろしく言っておいて」
 
 
 
終了後の座談会

ガーラ:ほっほっほ、しかし地獄行く!ズドーン
ドローネ:なんですとー!それはギリギリというよりレッドゾーンですよ!
ガーラ:ふん、長生きすれば怖いものなど何もないわっ
チチーナ:今回は、出番あった・・・のかなぁ
ドローネ:スゴイじゃないですか、台詞が一杯ありましたよ!
ガーラ:なんか、どれも合いの手みたいな感じで誰が言っても一緒みたいじゃったがのぅ
チチーナ:がーん
ドローネ:ちょ、そんなこと言ったら、またいじけるじゃないですか〜
チチーナ:・゜・(ノД`)・゜・
ガーラ:最近の若いもんは・・・

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