※下書き
執筆日:2006-8-10

【闇の妹-モンスターメーカー】

 4

 エルセアを出航して二日が過ぎた。海の上にはあまり縁の無かったドローネは、海鳥の鳴く声に、波飛沫の弾ける様に、潮の風の香りに、見る物触れる物全てに感激していた。雲一つ無い青い空は何処までも広がっているように見えたし、白波しか見えることのない水平線は彼女の心を刺激した。
 船には馴れているチチーナは、暇だという言葉が口癖となっていた。
 ブルガンディに向かう為に、エルセアから船に乗った一行だが、一行には金銭的余裕が無かったため、二人が乗っているのは客船ではなく、商船だ。荷下ろしやその他の雑務を手伝うという条件付きで乗せて貰っているのだ。とはいえ、海の上では、専門的な知識が皆無の二人に割り当てられた仕事は、せいぜい食事の準備の手伝いであった。
 二人は、ゆったりとしたとまでは言えなかったが、特にドローネは珍しい船旅を楽しんでいた。
 三日目にもなると、目新しいものも無いのか、ドローネも甲板で手摺りにもたれつつ、穏やかな波の動きに身を任せている。チチーナが後ろで大きな欠伸をした。
 そのとき、ドローネは視界の片隅に別の船の影を捉えた。航海中に見る初めての船とあって、ドローネは少し嬉しくなった。
 その直後に、船員たちが急に慌て始めた。甲板では怒号が飛び交い、船員達が大慌てで行き来する。事情が飲み込めないドローネたちに、ブリッジにあがってきた船長が、あの船が海賊船であることを告げた。
「えー!」
 チチーナが大声をあげる。出航前に海賊の噂は聞いてはいたが、まさか自分の乗ってる船が狩りの対象になるとは思ってもいなかった。海賊船は速度を速めて、商船に近づいてきた。主な動力が風の帆船では逃げようも無かった。
 チチーナが槍を自室から取り出してくる。ドローネも剣と鞘だけは身につけている。鎧は船上では重すぎて万が一海に転落した時に命取りになるから、身につけることはできないのだ。
 商船には、他に戦える者は乗っていなかった。
 やがて、大きな音と衝撃が商船を襲った。海賊船が真横に接触し、板を渡して、直接乗り込んでくるのが見えた。
 ドローネとチチーナは身構えて、海賊の襲撃を迎え撃つ。
 板を軽い足取りで渡ってきたのは、海賊のシンボルがついた黒い二角帽と黒いマントを身に纏ったシャーズの女海賊ノーラであった。
「この商船はノーラ一家が拿捕した!」
 女海賊の声が高々と海に響いた。ノーラはドローネとチチーナを一瞥すると、
「おとなしくしていれば、危害は加えない!無用な傷を負いたくなくば投降せよ!」
 それは、刃向かう意志を少しも見せない船長に向けられたものではないのは、二人にもすぐわかった。
 ドローネは鞘に納めた魔剣の柄を放さない。チチーナもまた槍を構えたままだ。ノーラは右手に短い曲刀を持ち、左に筒のついた奇妙なものを構えている。ドローネにはそれに見覚えがあった。
 短銃だ。普通の銃をコンパクトに改良したものだ。昔に、機械いじりの大好きなモンタズナが一時期研究していたのを覚えている。が、すぐに加熱で変形するわ暴発するわ、接近戦では使い物にならずに、結局モンタズナは投げ出したのである。
 もちろん、威力は剣や槍の比では無いが、直撃さえ避ければ致命傷には至らないし、連射が利かないため無力となる。だから左手に構えているのだろう。
 ドローネは先手を打つ機会をうかがっていた。その反抗的な目にノーラは当然気がついている。ノーラも二人から目を離さない。商船には、ノーラの他には数人の部下しか移っては来なかった。副団長らしき男のシャーズが部下を制止したためだ。
「さて、反抗的なやつが居るね。アタシをノーラと知ってのことかい。有り金全部差し出すなら今ならまだ許してやるが」
 そこでノーラは言葉を句切った。
 残念だが、ドローネには差し出す有り金はほとんど残ってはいなかった。そのなけなしの路銀を奪われるわけにもいかない。ましてや、これ以上、旅を遅らせたくは無い。ドローネは鞘から剣を抜き放つ。

 タァン

 突発的な渇いた音が甲板に響き渡る。ノーラの発砲は、ドローネの足下に突き刺さる。甲板に簡単に穴を開け、その威力をまざまざと見せつけた。ドローネはその場から一歩後退して、発砲を避ける。ドローネは銃口から射線がわかる。これで、短銃はもはや使えない。そう踏んだドローネは一気に間合いを詰めて、魔剣を奔らせる。
 カキィンという音と共に鋼と鋼がぶつかり合う。ドローネの剣はノーラの短銃に止められる。
「・・・なかなかやる」
 ドローネは再び間合いを開けて、ノーラの曲刀の一撃を避ける。
「殺すつもりは無かったとはいえアタシの銃を避けたんだ、褒めてやるよ。でもね、アンタが思ってるより科学は進んでるのさッ」
 ノーラの声が終わらぬ前に、短銃がもう一度火を噴いた。ドローネは予想外、そして予定外の二射目を転がって避ける。弾は再び逸れて、操舵室の壁に穴を開ける。
 あと、どれだけ連射が効くのかわからない。ドローネは再び間合いを詰める。剣を振り下ろし、銃を使わせないように切り込む。ドローネは剣の腕なら自信があった。
「銃での威嚇が効かない相手は久しぶりだねッ」
 ノーラが曲刀を滑らせる。ドローネとの斬り合いが少し続く。
 チチーナは、隙を伺っていたが、副団長のシャーズがナイフを構えて牽制している。この男は、ノーラに絶対の信頼を寄せているようだ。ノーラが負けることは想像もできないのだろう。一見、頼りなさげに見える優男であるが、油断できるような相手では無かった。
 タァン、三発目の発砲音がした。弾はドローネの右手をかすめて海の彼方へ消える。ドローネは怯まない。光と闇の抗争に明け暮れた時期もあるドローネには、恐怖や怯えといった感情は既に失われて久しい。
「やるねぇアンタ!ここまで楯突くのはイフィーヌ以来じゃないかねェ!」
 不意に姉の名を聞き、ドローネの動きが一瞬止まる。ノーラもまた不意に動きが止まったドローネについていけず、互いに間を空ける。
「あなた、姉さんを知っているの!?」
「ほぅ、アンタが例の妹さんか」
 ノーラは左手で短銃を構えて崩さない。しかし、短時間で三発も発砲した短銃はもはや撃つことはかなわない。次撃てば暴発は避けられない。
 ドローネは魔剣を構え、銃口の動きに細心の注意を払いながら、
「姉さんを知っているのね。何時何処で会ったの?」
「・・・」
 ノーラは答えない。短銃を構えたまま、ドローネに問う。
「アンタもイフィーヌ同様、リザレクションを授かっているね?」
 ドローネは黙して肯く。
「なら、アンタに聞く。闇の勢力がかつての栄光を取り戻したときにアンタはアタシに何をくれる!?」
 しばしの沈黙が船上を静寂に閉ざした。チチーナの鼓動でさえ、副団長の呼吸でさえ、聞こえるのでは無いかというほどに無音の時間が、波の音さえ聞こえぬ時間がただ過ぎる。
 急に海鳥の声が遠くで響く。それが合図のようにドローネは口を開く。
「わからない。私はただの騎士に過ぎない。私にはあなたにあげられるようなものは無いわ」
 ノーラが言う。
「あはは、素直というか嘘をつくことを知らないのね。そういうところは姉には似てないのね。その目も太刀筋もよく似てるというのに」
 そう言いながら、ノーラは短銃を腰に戻す。雰囲気を察知した副団長が部下を自分達の船に戻し始めた。
「アンタの姉は、二週間前に、このブルガンディへの航路で出会ったのよ。その後のことは知らないわ。今回はアタシの負けにしといてあげる。リザレクションを授けられた者を妨害するほど落ちぶれてはいないもの」
 その言葉に、後ろで船長が緊張から解き放たれたのか、へなへなと腰を落とす。チチーナは構えた槍を下ろすことは無かったが、活躍の場もなく平穏無事に事が済んだことを内心悔しがっていた。
「じゃあな、また会おう。そのときはこの借りを返して貰うからな」
 そう言いながら、ノーラは自分の船へと戻っていった。
 海賊船が去っていくのを、事態が飲み込めずに呆然とする船員と、緊張が解けて腰を抜かした船長がぼーっと眺めていた。
 船が再び航海を始めるには、少しの時間が必要であった。
 
 
 
終了後の座談会

ノーラ:ひゃっほーい、アタシは海賊王になるっ!
ドローネ:いきなり、ギリギリなネタはやめてください〜
ノーラ:これからの時代は銃だぜ!あのゴーレムヲタクにも言っておきな!
ドローネ:モンタズナさんは細々としたものは苦手なんですよ、きっと。
チチーナ:・・・また出番が無かった。
ドローネ:えっと、その、次はきっと出番がありますよ?
チチーナ:・・・疑問形だし。
シャット:お前なんかまだマシだーーーー俺なんか出てんのに、名前が出てないんだぞぉ!
ノーラ:んー、ゲストは一話につき一人って決まりがあんだよ。たぶん。
ドローネ:いや、そんな決まりは無かったと思いますが。。。
シャット:うがー飲んでやる暴れてやるー
チチーナ:アタシも暴れるぅぅ
ノーラ:もう酒入ってんのかよ。

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年7月  >>
293012345
6789101112
13141516171819
20212223242526
272829303112

お気に入り日記の更新

最新のコメント

日記内を検索