夕輝と闇の妹[3]
2006年8月9日 ShortStory※下書き
【闇の妹-モンスターメーカー】
3
アルルと別れ、ダンシネインの森を迂回すること三日あまり。結局、エルセアについたのは、予定よりも一週間以上遅れてのこととなった。
エルセアは、地中海に接する大きな港町だ。街には多くの人間が生活している。港町であるからか人間以外にもシャーズも多い。潮の匂いが仄かに香り、活気溢れるこの街は、ゾラリアやブルガンディに近いこともあり、交通の要所として繁栄を続けている。
ドローネがこの町を目指していたのは、ひとつ思い当たるものがあったからである。街に着くと、すぐに街の奥の雑踏へと足を進める。歩きづめのチチーナが暖かいベッドと一杯のエールを要求したが、却下した。
街の活気に比例するのか、あるいは、街に居づらい暗い影が集まるのか、雑踏の奥はそこだけ違う雰囲気の空間となっている。
ドローネは以前訪れたことがあるかのように、迷路状の雑踏を進み続け、ひとつのドアを開ける。チチーナも遅れないように後に続く。
お世辞にも大きいとは言えない部屋の中には、剣や斧、槍といった武器類が並んでいた。チチーナは、手近な槍を取ってみて見たが、業物とまでは言えないが、良質の品であるのはすぐにわかった。
(もっとも、私の槍ほどじゃないけどね)
ドアが奏でる雑音にか、人の気配に気づいてか奥より人が一人出てきた。赤毛の目立つ眼鏡の女性だ。
「いらっしゃい、どれもこれもええ品やでーすきなもん買うてや〜」
独特の訛りと方言の言葉を扱う女性に、チチーナは見覚えがあった。いや、正確には、姿は彼女の記憶の中の人とは少し違ったのだが、目の前の人間は、その人だと断言できる。きっと眼鏡は伊達眼鏡だろう。なんせ今まで、この一風変わった言葉を聞いたのは、その女性の前だけなのだから。
「今、欲しいのは武器じゃないの」
ドローネが奥から出てきた店主に言った。
「なんや、武器屋に来て、武器がいらんて話にならんやないか」
店主が言う。言葉はいかにも冷やかし客に腹を立てる店主の言葉であるが、その表情はそうではなかった。目をきらきらと輝かせ、まるで子供のようだ。
しばらく静寂が店内を支配したが、カウンターに片肘をついた店主がすぐに言葉を発した。
「ウチのこと知ってるようやな、後ろのねーちゃんには見覚えあるんやけど、あんたの顔は知らんわ。ウチはメアリ、あんたは?」
「私はドローネ。よろしく、メアリさん」
ドローネが丁寧に一礼する。
「ほー、あんたが噂の妹さんか。で、何が欲しいねん?」
「人を探してるの」
「姉探しか?」
ドローネの言葉に、即答するメアリ。ドローネは軽く一息ついて、言葉を続ける。
「それもある。けど、今はガーラさんを探しているの」
ドローネの言葉を聞いて、メアリはほうほうと言いながら、手元の紙切れにペンを走らせる。メアリに真剣な眼差しを向けるドローネの後ろで話に入れずにいじけてるチチーナは、ひたすら壁に掛かってる槍と斧の品定めに没頭している。
「んー、あんたの姉さんの居場所はウチにもわからんけど、ガーラならわかるで」
そこで、メアリはコホンと小さく咳払いして、
「で、いくら出すのん?」
完全な沈黙が世界を包む。遠くで聞こえるはずの街の活気さえもかき消された、狭い冬の中でドローネは、ギギギと錆び付いた金具の音を奏でながら、首を回して後ろの同行者をみやる。そこには、既に後ろを向いてこちらに長い髪の毛で隠れた背中しか見せてない、なんとも頼りない同行者の姿があった。
はっきりいってお金は無かった。ドローネにしろチチーナにしろ、旅を続けるのに最低限の路銀しか持っていない。いや、むしろ最低限にさえ満たないかもしれない。
「あははははは」
ドローネの渇いた笑い声が、寒い世界をさらに極寒に近づける。メアリの目が怖い。
「その腰の剣でも貰っとこか?」
「そ、それはダメ!」
メアリが、ドローネの剣をじっと見ている。ドローネと幾多の死線を乗り越えた闇の魔剣。それだけは手放すわけにはいかない。
「・・・出世払いはダメ?」
「ウチが欲しいのはゼニだけなん、知っとるやろ?」
そうやって、メアリが左手で小さく輪っかを作ってみせる。ドローネとてそんなことは百も承知だった。ウルフレンド随一の情報屋メアリの恋人は金貨だという話は有名すぎる。
「・・・と言いたいところやけど」
肩を落としてるドローネの前でメアリが自分の言を撤回して、話を続ける。
「ウチも鬼やない。しかも、アンタの出世払いは期待もできるときたら、力貸してやらんでもないよ」
「ほんとに!」
ドローネが両手を胸の前で繋いで目を輝かせる。その声に驚いたチチーナがこちらを振り返る。
「ウチは嘘はつかん。ウチとしても、あんたらの軍団と仲良くやっていけるなら、それにこしたことは無いしな。ケンカはしたくないっちゅーわけや」
ドローネが両手をあげて喜ぶ。正直なところ、お金が無いドローネは、上手く行く自信は全く無かったのだ。
「けど、タダはあかん」
結局、ドローネは手持ちの三分の一を失った。もちろん、定価(メアリの言う定価だが)の十分の一以下である。
「タダはあかん。タダより高いもんは無いし、タダは存在自体が悪や」
とまで断言するメアリに、情報料をこれ以上負けさせることは、世界をひっくり返すより難しいことである。
「ブルガンディに向かえ」
メアリはそう言った。丁寧に、ガーラの居場所を示した地図も付けてくれた。ドローネはメアリに礼を言うと、メアリの武器屋を後にした。
終了後の座談会
メアリ:はァーい、ウチのファンのみんな〜ようやくウルフレンドの真のアイドルの登場やでぇ
ドローネ:・・・なんかロリエーンみたいなノリですね。。。
メアリ:まあな、これでも引っ張りだこなんやでーそこで泣いてる影の薄い槍女とは違うっちゅーことやな。
チチーナ:シクシク。だんだん出番が削られてる気がする・・・
ドローネ:そ、そんなこと無いですよ。
チチーナ:・・・もしかして私居なくても問題無い?
ドローネ:そ、そんなこと無いです、よ?
メアリ:あーはっはっは、なんなやウチが代わりしたろかーえー話やろ、今ならギャラも負けといたるでー
ドローネ:・・・しっかりギャラは取るのね。
【闇の妹-モンスターメーカー】
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アルルと別れ、ダンシネインの森を迂回すること三日あまり。結局、エルセアについたのは、予定よりも一週間以上遅れてのこととなった。
エルセアは、地中海に接する大きな港町だ。街には多くの人間が生活している。港町であるからか人間以外にもシャーズも多い。潮の匂いが仄かに香り、活気溢れるこの街は、ゾラリアやブルガンディに近いこともあり、交通の要所として繁栄を続けている。
ドローネがこの町を目指していたのは、ひとつ思い当たるものがあったからである。街に着くと、すぐに街の奥の雑踏へと足を進める。歩きづめのチチーナが暖かいベッドと一杯のエールを要求したが、却下した。
街の活気に比例するのか、あるいは、街に居づらい暗い影が集まるのか、雑踏の奥はそこだけ違う雰囲気の空間となっている。
ドローネは以前訪れたことがあるかのように、迷路状の雑踏を進み続け、ひとつのドアを開ける。チチーナも遅れないように後に続く。
お世辞にも大きいとは言えない部屋の中には、剣や斧、槍といった武器類が並んでいた。チチーナは、手近な槍を取ってみて見たが、業物とまでは言えないが、良質の品であるのはすぐにわかった。
(もっとも、私の槍ほどじゃないけどね)
ドアが奏でる雑音にか、人の気配に気づいてか奥より人が一人出てきた。赤毛の目立つ眼鏡の女性だ。
「いらっしゃい、どれもこれもええ品やでーすきなもん買うてや〜」
独特の訛りと方言の言葉を扱う女性に、チチーナは見覚えがあった。いや、正確には、姿は彼女の記憶の中の人とは少し違ったのだが、目の前の人間は、その人だと断言できる。きっと眼鏡は伊達眼鏡だろう。なんせ今まで、この一風変わった言葉を聞いたのは、その女性の前だけなのだから。
「今、欲しいのは武器じゃないの」
ドローネが奥から出てきた店主に言った。
「なんや、武器屋に来て、武器がいらんて話にならんやないか」
店主が言う。言葉はいかにも冷やかし客に腹を立てる店主の言葉であるが、その表情はそうではなかった。目をきらきらと輝かせ、まるで子供のようだ。
しばらく静寂が店内を支配したが、カウンターに片肘をついた店主がすぐに言葉を発した。
「ウチのこと知ってるようやな、後ろのねーちゃんには見覚えあるんやけど、あんたの顔は知らんわ。ウチはメアリ、あんたは?」
「私はドローネ。よろしく、メアリさん」
ドローネが丁寧に一礼する。
「ほー、あんたが噂の妹さんか。で、何が欲しいねん?」
「人を探してるの」
「姉探しか?」
ドローネの言葉に、即答するメアリ。ドローネは軽く一息ついて、言葉を続ける。
「それもある。けど、今はガーラさんを探しているの」
ドローネの言葉を聞いて、メアリはほうほうと言いながら、手元の紙切れにペンを走らせる。メアリに真剣な眼差しを向けるドローネの後ろで話に入れずにいじけてるチチーナは、ひたすら壁に掛かってる槍と斧の品定めに没頭している。
「んー、あんたの姉さんの居場所はウチにもわからんけど、ガーラならわかるで」
そこで、メアリはコホンと小さく咳払いして、
「で、いくら出すのん?」
完全な沈黙が世界を包む。遠くで聞こえるはずの街の活気さえもかき消された、狭い冬の中でドローネは、ギギギと錆び付いた金具の音を奏でながら、首を回して後ろの同行者をみやる。そこには、既に後ろを向いてこちらに長い髪の毛で隠れた背中しか見せてない、なんとも頼りない同行者の姿があった。
はっきりいってお金は無かった。ドローネにしろチチーナにしろ、旅を続けるのに最低限の路銀しか持っていない。いや、むしろ最低限にさえ満たないかもしれない。
「あははははは」
ドローネの渇いた笑い声が、寒い世界をさらに極寒に近づける。メアリの目が怖い。
「その腰の剣でも貰っとこか?」
「そ、それはダメ!」
メアリが、ドローネの剣をじっと見ている。ドローネと幾多の死線を乗り越えた闇の魔剣。それだけは手放すわけにはいかない。
「・・・出世払いはダメ?」
「ウチが欲しいのはゼニだけなん、知っとるやろ?」
そうやって、メアリが左手で小さく輪っかを作ってみせる。ドローネとてそんなことは百も承知だった。ウルフレンド随一の情報屋メアリの恋人は金貨だという話は有名すぎる。
「・・・と言いたいところやけど」
肩を落としてるドローネの前でメアリが自分の言を撤回して、話を続ける。
「ウチも鬼やない。しかも、アンタの出世払いは期待もできるときたら、力貸してやらんでもないよ」
「ほんとに!」
ドローネが両手を胸の前で繋いで目を輝かせる。その声に驚いたチチーナがこちらを振り返る。
「ウチは嘘はつかん。ウチとしても、あんたらの軍団と仲良くやっていけるなら、それにこしたことは無いしな。ケンカはしたくないっちゅーわけや」
ドローネが両手をあげて喜ぶ。正直なところ、お金が無いドローネは、上手く行く自信は全く無かったのだ。
「けど、タダはあかん」
結局、ドローネは手持ちの三分の一を失った。もちろん、定価(メアリの言う定価だが)の十分の一以下である。
「タダはあかん。タダより高いもんは無いし、タダは存在自体が悪や」
とまで断言するメアリに、情報料をこれ以上負けさせることは、世界をひっくり返すより難しいことである。
「ブルガンディに向かえ」
メアリはそう言った。丁寧に、ガーラの居場所を示した地図も付けてくれた。ドローネはメアリに礼を言うと、メアリの武器屋を後にした。
終了後の座談会
メアリ:はァーい、ウチのファンのみんな〜ようやくウルフレンドの真のアイドルの登場やでぇ
ドローネ:・・・なんかロリエーンみたいなノリですね。。。
メアリ:まあな、これでも引っ張りだこなんやでーそこで泣いてる影の薄い槍女とは違うっちゅーことやな。
チチーナ:シクシク。だんだん出番が削られてる気がする・・・
ドローネ:そ、そんなこと無いですよ。
チチーナ:・・・もしかして私居なくても問題無い?
ドローネ:そ、そんなこと無いです、よ?
メアリ:あーはっはっは、なんなやウチが代わりしたろかーえー話やろ、今ならギャラも負けといたるでー
ドローネ:・・・しっかりギャラは取るのね。
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