夕輝と闇の妹[2]
2006年8月1日 ShortStory【闇の妹[2]-モンスターメーカー】
2
ドローネは途方に暮れていた。
そもそも、言い出したのはチチーナだった。確かに、それに安易に同調した自分の責任も全く無いとは言い切れないのだが。
ドローネは今日何回目かわからない溜息を吐いた。まだ日さえ昇らぬと言うのに。深い溜息は、となりの同行者にも聞こえているだろう。
「やーねぇ気にしちゃダメよ」
チチーナがドローネの肩を叩く。鬱蒼とした木々が絡む下で、ドローネの声が響く。
「気にならないわけないでしょう!だいたい近道をしようと言ったのはチチーナさんじゃないですか!」
「…いや、でも、ドローネも賛成したじゃない」
深い深いダンシネインの森で二人は遭難していた。
ドローネは始めエルシアの港町を目指していた。街道を徒歩で進んでいた。順調にいけば三日とかかるまい。
(そう、そこまでは良かった。別に何の問題もなかったのよ)
今、ドローネは生い茂る森の中を微かに差し込む朝日の光を頼りに突き進んでいた。小さな木々の枝が肌を引っかき小さな傷ができる。露出の高いチチーナは傷だらけになってしまっていた。
街道はダンシネインの森を大きく迂回するコースを取っていた。そこでチチーナが言ったのだ。
「ダンシネインの森を突っ切った方が早いんじゃない?」
その一言が全ての始まりだった。
そうして、早くも三日、街道を進んでいればとうにエルシアに着いているだろう頃に、二人はダンシネインの森の何処かに居るのである。
「はぁ、先が思い遣られるわねぇ」
人ごとのように言うチチーナを斬り倒したい衝動を抑え、ドローネは北へ向かう。そうすればいつかエルシアの方へと抜けられるだろうと思って。
「ん?」
チチーナが何かに気が付いて立ち止まった。ドローネも遅れて、目の前に何かいるのがわかった。
「クラゲ?」
ドローネの初めて見る生き物だった。白い透明なクラゲがふわふわと浮いている。森の中であるので、小動物の類はそこそこ見受けられたが、よくわからない生き物は初めてである。ドローネは同行者に聞いてみる。
「あれ、何かしら」
「クラゲよ」
(そんなことは見れば解るんですが…)
ドローネはすんでところで口まで出てきた言葉を飲み込み、クラゲの方を見やった。クラゲはふわふわと少しずつ近づいてくるではないか。
その大きさは、背の高いチチーナよりも大きく、小柄なドローネの倍はあろうかというほどであった。それは森の木々を避けながら、器用にこちらに近づいてきた。同時にチチーナが槍を構えているのが見えた。
「…あれは肉食動物よ」
「ひゃー」
クラゲとの戦いは死闘を極めた。チチーナが得意とする槍は狭い森ではその真価を発揮できず、ドローネは自分の意識にまだ体がついて行かない。クラゲはそんな二人の獲物を糧とする為に、触手を伸ばし二人を絡め取ろうとする。
ひゅん
風切音と共に矢が飛んできて、クラゲに突き刺さる。チチーナは触手を薙ぎ払い、矢の飛んできた方を視線をやると、木の上に弓矢を構えた背の低いエルフの姿が見えた。チチーナにはそのエルフに見覚えがあった。
「アルル!丁度いいわ、助けて〜」
チチーナは、そのエルフに助けを求める。歴戦の勇者二人がクラゲに苦戦するとはなんとも嘆かわしい状況ではあったが、この丘クラゲ、なかなか手強い存在でもあった。
助けを求められたアルルは弓に矢を三本同時につがえると、それをクラゲに向けて放った。そのうち二本の矢は風を切りクラゲに突き刺さる。クラゲが悲鳴なのか、くぐもった呻き声をあげる。残った一本はクラゲを逸れて、ドローネの左肩に命中した。クラゲと同じく悲鳴をあげるドローネ。
「ありゃ、失敗失敗。えへっ」
「えへっで済まさないで…」
ドローネの抗議をよそに、クラゲは新たな強敵の出現を感じ取り、アルルの方へと触手を伸ばす。
「きゃ」
触手から逃れようとして、アルルは木から落ちた。
どすんという大きな音が森に派手に響く。
「あー役立たずだわ」
チチーナは再び槍を構えた。ドローネも左肩を押さえながら、同じ意見であった。
その後、チチーナの奮戦もあり、クラゲはなんとか撃退された。しかし、ドローネは肩に手痛い傷を負ってしまった。
「ご、ごめんなさいねぇ」
アルルが両手を合わせている。ここまで弓を扱うのが下手なエルフが存在しても許されるのだろうかとドローネもチチーナも思っていた。
「と、ところでこんな所で何をしているの?」
アルルが言った。
「「遭難」」
森の住人たるエルフの道案内を受け、二人は三日と半日ぶりに森を出た。森を抜けた二人の目に飛び込んできたのは、ベング高地であった。ベング高地はダンシネインの森の南側に広がるだだっ広い丘である。エルシアとはダンシネインを挟んで真逆に位置する。
「ねぇアルル。私たちはエルシアに向かってたんだけど、森の反対側に出ちゃったんだねぇ」
チチーネが言った。
ドローネにはもはや、何かを言うだけの気力は残っていなかった。
終了後の座談会
チチーナ:はーい、今日はここまで〜
ドローネ:・・・痛い。
アルル:ごめんねー、まあ別に死ななかったんだから気にしないで
ドローネ:死んだら、この話も終わっちゃうんですが
チチーナ:まあ、いいじゃん。長い旅なんだからいろいろあるわよ
ドローネ:もとは言えばチチーナさんのせいじゃないですか〜
チチーナ:・・・まあ、気にしすぎないことよ。ハゲるわよ
チチーナ:ところで、アルルって女の子?男の子?
アルル:さて、なんのことやら?
ドローネ:絵は女の子っぽい気もするけど
チチーナ:でも男の子って話もあるよね?
アルル:・・・さぁてどうなんでしょうか・・・
チチーナ:手っ取り早く確認する方法があるわっ!アンタ脱ぎなさい!
アルル:ちょちょっと待ってください〜
チチーナ:脱ぐのよ!今すぐに、私が服を引っ剥がしてあげるわ!
アルル:だ、ダメです。チチーナさん、スボンから手を放してくださいー。ドローネさんも助けて
ドローネ:・・・わくわく
アルル:だぁーめー
2
ドローネは途方に暮れていた。
そもそも、言い出したのはチチーナだった。確かに、それに安易に同調した自分の責任も全く無いとは言い切れないのだが。
ドローネは今日何回目かわからない溜息を吐いた。まだ日さえ昇らぬと言うのに。深い溜息は、となりの同行者にも聞こえているだろう。
「やーねぇ気にしちゃダメよ」
チチーナがドローネの肩を叩く。鬱蒼とした木々が絡む下で、ドローネの声が響く。
「気にならないわけないでしょう!だいたい近道をしようと言ったのはチチーナさんじゃないですか!」
「…いや、でも、ドローネも賛成したじゃない」
深い深いダンシネインの森で二人は遭難していた。
ドローネは始めエルシアの港町を目指していた。街道を徒歩で進んでいた。順調にいけば三日とかかるまい。
(そう、そこまでは良かった。別に何の問題もなかったのよ)
今、ドローネは生い茂る森の中を微かに差し込む朝日の光を頼りに突き進んでいた。小さな木々の枝が肌を引っかき小さな傷ができる。露出の高いチチーナは傷だらけになってしまっていた。
街道はダンシネインの森を大きく迂回するコースを取っていた。そこでチチーナが言ったのだ。
「ダンシネインの森を突っ切った方が早いんじゃない?」
その一言が全ての始まりだった。
そうして、早くも三日、街道を進んでいればとうにエルシアに着いているだろう頃に、二人はダンシネインの森の何処かに居るのである。
「はぁ、先が思い遣られるわねぇ」
人ごとのように言うチチーナを斬り倒したい衝動を抑え、ドローネは北へ向かう。そうすればいつかエルシアの方へと抜けられるだろうと思って。
「ん?」
チチーナが何かに気が付いて立ち止まった。ドローネも遅れて、目の前に何かいるのがわかった。
「クラゲ?」
ドローネの初めて見る生き物だった。白い透明なクラゲがふわふわと浮いている。森の中であるので、小動物の類はそこそこ見受けられたが、よくわからない生き物は初めてである。ドローネは同行者に聞いてみる。
「あれ、何かしら」
「クラゲよ」
(そんなことは見れば解るんですが…)
ドローネはすんでところで口まで出てきた言葉を飲み込み、クラゲの方を見やった。クラゲはふわふわと少しずつ近づいてくるではないか。
その大きさは、背の高いチチーナよりも大きく、小柄なドローネの倍はあろうかというほどであった。それは森の木々を避けながら、器用にこちらに近づいてきた。同時にチチーナが槍を構えているのが見えた。
「…あれは肉食動物よ」
「ひゃー」
クラゲとの戦いは死闘を極めた。チチーナが得意とする槍は狭い森ではその真価を発揮できず、ドローネは自分の意識にまだ体がついて行かない。クラゲはそんな二人の獲物を糧とする為に、触手を伸ばし二人を絡め取ろうとする。
ひゅん
風切音と共に矢が飛んできて、クラゲに突き刺さる。チチーナは触手を薙ぎ払い、矢の飛んできた方を視線をやると、木の上に弓矢を構えた背の低いエルフの姿が見えた。チチーナにはそのエルフに見覚えがあった。
「アルル!丁度いいわ、助けて〜」
チチーナは、そのエルフに助けを求める。歴戦の勇者二人がクラゲに苦戦するとはなんとも嘆かわしい状況ではあったが、この丘クラゲ、なかなか手強い存在でもあった。
助けを求められたアルルは弓に矢を三本同時につがえると、それをクラゲに向けて放った。そのうち二本の矢は風を切りクラゲに突き刺さる。クラゲが悲鳴なのか、くぐもった呻き声をあげる。残った一本はクラゲを逸れて、ドローネの左肩に命中した。クラゲと同じく悲鳴をあげるドローネ。
「ありゃ、失敗失敗。えへっ」
「えへっで済まさないで…」
ドローネの抗議をよそに、クラゲは新たな強敵の出現を感じ取り、アルルの方へと触手を伸ばす。
「きゃ」
触手から逃れようとして、アルルは木から落ちた。
どすんという大きな音が森に派手に響く。
「あー役立たずだわ」
チチーナは再び槍を構えた。ドローネも左肩を押さえながら、同じ意見であった。
その後、チチーナの奮戦もあり、クラゲはなんとか撃退された。しかし、ドローネは肩に手痛い傷を負ってしまった。
「ご、ごめんなさいねぇ」
アルルが両手を合わせている。ここまで弓を扱うのが下手なエルフが存在しても許されるのだろうかとドローネもチチーナも思っていた。
「と、ところでこんな所で何をしているの?」
アルルが言った。
「「遭難」」
森の住人たるエルフの道案内を受け、二人は三日と半日ぶりに森を出た。森を抜けた二人の目に飛び込んできたのは、ベング高地であった。ベング高地はダンシネインの森の南側に広がるだだっ広い丘である。エルシアとはダンシネインを挟んで真逆に位置する。
「ねぇアルル。私たちはエルシアに向かってたんだけど、森の反対側に出ちゃったんだねぇ」
チチーネが言った。
ドローネにはもはや、何かを言うだけの気力は残っていなかった。
終了後の座談会
チチーナ:はーい、今日はここまで〜
ドローネ:・・・痛い。
アルル:ごめんねー、まあ別に死ななかったんだから気にしないで
ドローネ:死んだら、この話も終わっちゃうんですが
チチーナ:まあ、いいじゃん。長い旅なんだからいろいろあるわよ
ドローネ:もとは言えばチチーナさんのせいじゃないですか〜
チチーナ:・・・まあ、気にしすぎないことよ。ハゲるわよ
チチーナ:ところで、アルルって女の子?男の子?
アルル:さて、なんのことやら?
ドローネ:絵は女の子っぽい気もするけど
チチーナ:でも男の子って話もあるよね?
アルル:・・・さぁてどうなんでしょうか・・・
チチーナ:手っ取り早く確認する方法があるわっ!アンタ脱ぎなさい!
アルル:ちょちょっと待ってください〜
チチーナ:脱ぐのよ!今すぐに、私が服を引っ剥がしてあげるわ!
アルル:だ、ダメです。チチーナさん、スボンから手を放してくださいー。ドローネさんも助けて
ドローネ:・・・わくわく
アルル:だぁーめー
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