彼女は眼下を見下ろした。
駅前広場には、あくせくと行き来する人々の群れが見える。
駅舎から吐き出された米粒ほどの大きさの人々が
まるで、ひっくり返された盆から流れ出した水のように散っていく。
姿形も同じであれば、彼女には顔さえ同じに見えた。
駅前広場の真ん中には、皮肉げに時計塔がそそり立っていた。
雨風に曝され続けたそれには錆びが浮き、
過去の立派な白い姿は想像も出来なかった。
彼女はこの丘のこの場所が好きだった。
ここからは駅前にある全てが見通せる。
そして、それは小さく、まるでおもちゃ箱のようでもあった。
彼女は朝からずっとここに佇んでいる。
もう、日が暮れてだいぶたった。
それでも、人々は変わらぬように行き来している。
夜という闇は街灯によって祓われた今、
昼も夜も関係なさげなブリキ兵隊の行進は
昨日の軌跡を正確に辿っているのだ。
彼女はつぶやいた。
それは誰にも聞こえず風に攫われていってしまった。
まだ、夏は遠く、夜の風は冷えた。
彼女にはそれが心地よかった。
風の匂いだけが、日々の移り変わりを彼女に教えてくれる。
終電が去ってしまっても、街は眠らない。
ネオンの燈が煌々と闇を照らし、新たな闇を創る。
人々の流れが途絶えることもない。
なぜ生きているのか。
そんな問いに対する答えを失い、
探し求めることも放棄してしまった群傀は
ひたすら行進しつづけるだけであった。
毎日続く終わり無き行進曲に流される人々を
彼女はこの丘からただ眺めているだけであった。
彼女は風に流され足下に来た紙切れを拾った。
何かの広告か、悪戯小僧のノート切れ端か、
はたまた、重要な書類なのか。
そんなことは彼女にはどうでもよかった。
彼女は丁寧にヒコーキを折り上げると風に乗せて飛ばした。
冷たい夜風に乗り、小高い丘から飛行機が飛び立ち、
彼女のため息を乗せて駅前広場の方へと消えていった。

彼女の姿は未だ丘の上にのこっていた。

コメント

nophoto
ごん
2006年6月23日20:10

それは君が望む永(略

ですか?

ごめんなさい。

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