あー暑い

彼女はそう叫んだ。
南の空高く、太陽が輝いている。
岩と砂だらけの地面からは陽炎さえ立ち上っている。

暑い暑い

いくら叫んでも涼しくはならないのが彼女には納得できなかった。
いや、決して暑さを本当に感じているわけではないのだろうが、
こうも周りが暑さの象徴で埋め尽くされると
気温が低かろうがなんだろうが、暑く感じるのは
人間の性であろう。
素っ裸になりたい衝動を抑えながら彼女は歩き続けた。

どうせ誰も居ないんだしかまわないんだけどね

それでも、一線を越えるのはなかなか難しいことだ。
彼女はそんなことを漠然と考えていた。
ふと腰に手をやるが、聖別の刃は既に失われた。
意味が無いものは存在できない。その大原則は
未だに世界を縛っている。
服が消えないってことはそういうことなんだろう。
彼女は裸になるのは諦めた。
 
 
永き星霜の時間には意味があるのだろうか。
そして、この耐え切れぬ暑さにも・・・
顔をしかめた彼女の行軍は続く。
剣は無いが、あれ以来彷徨う影にも意味あるゴーストにも
出会うことはなかった。
本当に世界には何もいなくなった。

岩肌からサボテンが生えているのが見えた。
前世の影が焼け付いているサボテンは、
彼女が感じる幻の暑さを高めるという意味だけで
この世に存在し続けてるのでは無いかと彼女は疑っていた。
しかし、剣も無いし触ると痛そうだ。

昼は暑いが、
夜は寒い。
独りは寒い。

あの娘と出会うまではずっと独りだったのに、
そのころは寒さなんて感じなかったのに

それでも、昼は行軍を続け、夜は休んだ。
疲れるはずのない両足は、夜は重く動かなかった。
睡眠さえ不要な、そう睡眠など意味のない体なのに
夜は瞳を閉じた。
もしかしたら目覚めることはもう無いのかもしれない。
それはそれで良いのかもしれない・・・

太陽は止まることなく昇り沈む。
あれがいつのことだったかもはやわからない。
一週間前だったかもしれないし、一年前だったかもしれない。
月の巡りで時を知ることが出来た時代もあったのだろうが、
今の月は歪に欠けて虚空を彷徨っているだけだ。

あの瞬間に、月はそのチカラを失った。
そう、あの娘は話してくれた。ような気がする。
一瞬に世界のルールが書き換わった。
複雑奇怪な物理法則から、シンプルな一行の法律へと。
 
 
意味の無いものは存在できない。
 
 
彼女はその言葉を繰り返した。
すっかり夜も更け、まぶたが重い。
いや、重く感じる。
ぼんやりと、丸くない月を見上げる。
 
 
その瞬間、彼女は何かに気が付いた。
 
 
月は"存在"する!
 
 
今、彼女は自分の意味を見いだしつつあった。

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