夕輝と黄金色の気まぐれ
2005年6月21日 ShortStory【黄金色の気まぐれ】
夜空にまん丸な月が惜しむことなく大地に柔らかな光を落としている。暗くて深い森にもその光はゆっくりと射し込んでこの世とあの世の境目を滲ませていく。いつだって、光の届かぬ世界は黄泉であり、鬼の住処であった。それでも、月の光は分け隔て無く全てを照らす。人間も人間でない者も。
まだ暑い。
暦の上では夏はもう終わりを迎えたにもかかわらず、まだじっとり暑い。どうもこうして暑いのか。さっさと冬になってしまえばいいのに。人里で人間どもが月見と称して騒いでるのを遠目に見ながら、それはじっと月を見ていた。
・・・暑いのは苦手だ。
金色に輝くふさふさの尻尾を引きずって、月の光を受けたそれはより一層秀麗な姿を映していた。人は彼女の事を悪く言う。凶兆と呼ぶ者さえいる。彼女が来ると国が滅びるそうだ。いい迷惑だ。でも、そんなことは気にもならなかった。別にどうでもよかった。
黒く塗りつぶされたキャンパスに流れ星を描くかのように、彼女は飛んでいった。その姿は幻想的としか言いようが無かった。小判にも宝石にも負けぬ輝きで一筋一筋が際だつ長い九つの尾は西洋渡来のいかな美術品にも負けぬ美しき煌めきを放っている。人間がその毛皮を血眼になって追い求めるのも納得できる。
月見に興じていた人間どもが彼女に気づいたようだ。数瞬の間、その流麗な姿に魅了されていたが、すぐに禍の兆しに恐れ惑い大騒ぎとなった。そんな間抜けどもを高い空から彼女は眺めていた。これ以上の楽しみは無いといったほどにその目を輝かせて。人間が勝手に思いこんで勝手に自滅する様を見るのはなんとも楽しかった。
遠くの大きな邸の主、この辺りの領主だった男が右往左往しているのが見えた。
悪くないオトコだったけどね。
数日前まで、彼女はその男に大層世話を焼いて貰っていた。いや、向こうが勝手に世話を焼いていただけなのだが。見た目も彼女好みであったし、なにより根が良い人物だったので彼女もついつい長居してしまった。けど、それも飽きた。回りがやいのやいのと世話を焼いてくれるのは楽しい。視線に入る全ての男共が自分の前に跪いてくれるのは楽しい。気に入った男に抱かれてやるのも楽しかった。
でも、そんな男共の間抜けな姿を見るのもまた楽しかった。
ついこの間まで、彼女と床を共にしていた男どもの驚き惑う群れを眼下に捕らえながら、彼女は大空を悠然と駆けた。眉目秀麗な女人の姿を取ったときよりも、獣の彼女は美しかった。この島国にある全ての金塊を集めてさえ、九尾の輝きに遠く及ばぬであろう。彼女は自分の美しさを知っている。知っているからこそ、彼女は何時でも美しい。
右往左往する間抜けを眺めるのも飽きた彼女は次の獲物を探しに別の場所に向かって飛んでいった。獲物という言葉は適切ではなかった。彼女は人間をとって喰らったりしない。人間が彼女に勝手に食べ物と楽しみを与えてくれるのだから。
九尾の狐、ナインテイルは別に貴方を破滅させるために貴方の元を訪れるわけではない。彼女はただ愛して欲しいだけ。その愛の果てに破滅するかどうかは貴方の自由だ。
夜空にまん丸な月が惜しむことなく大地に柔らかな光を落としている。暗くて深い森にもその光はゆっくりと射し込んでこの世とあの世の境目を滲ませていく。いつだって、光の届かぬ世界は黄泉であり、鬼の住処であった。それでも、月の光は分け隔て無く全てを照らす。人間も人間でない者も。
まだ暑い。
暦の上では夏はもう終わりを迎えたにもかかわらず、まだじっとり暑い。どうもこうして暑いのか。さっさと冬になってしまえばいいのに。人里で人間どもが月見と称して騒いでるのを遠目に見ながら、それはじっと月を見ていた。
・・・暑いのは苦手だ。
金色に輝くふさふさの尻尾を引きずって、月の光を受けたそれはより一層秀麗な姿を映していた。人は彼女の事を悪く言う。凶兆と呼ぶ者さえいる。彼女が来ると国が滅びるそうだ。いい迷惑だ。でも、そんなことは気にもならなかった。別にどうでもよかった。
黒く塗りつぶされたキャンパスに流れ星を描くかのように、彼女は飛んでいった。その姿は幻想的としか言いようが無かった。小判にも宝石にも負けぬ輝きで一筋一筋が際だつ長い九つの尾は西洋渡来のいかな美術品にも負けぬ美しき煌めきを放っている。人間がその毛皮を血眼になって追い求めるのも納得できる。
月見に興じていた人間どもが彼女に気づいたようだ。数瞬の間、その流麗な姿に魅了されていたが、すぐに禍の兆しに恐れ惑い大騒ぎとなった。そんな間抜けどもを高い空から彼女は眺めていた。これ以上の楽しみは無いといったほどにその目を輝かせて。人間が勝手に思いこんで勝手に自滅する様を見るのはなんとも楽しかった。
遠くの大きな邸の主、この辺りの領主だった男が右往左往しているのが見えた。
悪くないオトコだったけどね。
数日前まで、彼女はその男に大層世話を焼いて貰っていた。いや、向こうが勝手に世話を焼いていただけなのだが。見た目も彼女好みであったし、なにより根が良い人物だったので彼女もついつい長居してしまった。けど、それも飽きた。回りがやいのやいのと世話を焼いてくれるのは楽しい。視線に入る全ての男共が自分の前に跪いてくれるのは楽しい。気に入った男に抱かれてやるのも楽しかった。
でも、そんな男共の間抜けな姿を見るのもまた楽しかった。
ついこの間まで、彼女と床を共にしていた男どもの驚き惑う群れを眼下に捕らえながら、彼女は大空を悠然と駆けた。眉目秀麗な女人の姿を取ったときよりも、獣の彼女は美しかった。この島国にある全ての金塊を集めてさえ、九尾の輝きに遠く及ばぬであろう。彼女は自分の美しさを知っている。知っているからこそ、彼女は何時でも美しい。
右往左往する間抜けを眺めるのも飽きた彼女は次の獲物を探しに別の場所に向かって飛んでいった。獲物という言葉は適切ではなかった。彼女は人間をとって喰らったりしない。人間が彼女に勝手に食べ物と楽しみを与えてくれるのだから。
九尾の狐、ナインテイルは別に貴方を破滅させるために貴方の元を訪れるわけではない。彼女はただ愛して欲しいだけ。その愛の果てに破滅するかどうかは貴方の自由だ。
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