【ラリー・ジャッジメント】

「ーーーーーーーーーーーーーッ!」

声にならない悲鳴が会場にまたひとつ響いた。
それは、《Demonic Consultation》でライブラリ全てが除外されてしまった不幸な亡者の断末魔の叫びにも、《The Abyss》に飲み込まれた罪無き哀れな《Grizzly Bears/灰色熊》の叫びにも似ていた。

「・・・無念」

その黒いジャンパーの男はガクっと膝をつき、大きな音を立てて、その場に崩れ落ちた。彼の心臓が動いていないのは、誰の目にも明らかだ。その男を横目にテーブルには二人の男が座っている。ギャラリーは静まりかえっていた。ある者は目の前の惨劇、そう惨劇と呼ぶにこれほど相応しいものがあろうか、それに目を瞑り顔を背けた。ある者は、奇妙な興奮と《Fear/畏怖》に心を覆われていた。
テーブルに座っているニコライは目の前に、彼と向かい合う形で座っているグルジアノフを睨んだ。

グルジアノフは言った。

「・・・私は何も悪くは無い。悪いのは勉強不足な彼らだよ」
「クソ野郎がっ」

ニコライがスラングを口にするが、彼にもう残された手は無い。
事の始まりは、ニコライがグルジアノフから先制の勝利をあげたことに端を発した。グルジアノフは自分の敗色が濃いと悟るやいなや、かくも卑怯でいて非情な手段に出たのだ。

そう、彼の場には、《Shared Fate/分かち合う運命》が出ていた。

この恐怖のルールブレイカーがこの《Haunting Misery/惨劇の記憶》の主だった。

グルジアノフはわざとルールの不備をつき、難解な質問を、哀れな犠牲者にぶつけたのだ。そして、この会場に居た全てのジャッジが難問にその息の根を止められた。ジャッジが居なければ、当然公式トーナメントは開催できない。

会場の受付を担当していたスタッフの女性の悲痛な声が会場に響いた。

「・・・誰か、誰かお客様の中にジャッジの方はいらっしゃいませんか!」

ニコライは《Mind Maggots/精神蛆》を噛み砕いたかのような顔をしていた。ギャラリーにジャッジが居るはずが無い。だいたい、参加者はジャッジをする事が出来ないのだ・・・
グルジアノフは、《Evil Eye of Orms-by-Gore/オームズ=バイ=ゴアの邪眼》にも勝るとも劣らない邪悪な目で、ニコライを見ていた。その表情には、笑みさえ浮かんでいる。《Volrath the Fallen / 墜ちたる者ヴォルラス》がもし現実に存在するのなら、グルジアノフの事なのではないかとさえ思えた。

しかし、次の瞬間。奇蹟は起きた。

「Hey、俺はジャッジだ」

ギャラリーが一瞬静まり、そして大歓声に沸いた。

「ラリーだ」「Avatar of《Balance/天秤》だ」「なぜこんなところに?」

ギャラリーから様々な言葉が渦のように飛び出し、ニコライの表情は明るくなった。逆に《Volrath the Fallen / 墜ちたる者ヴォルラス》は黒い顔をさらに暗く歪めた。

「さて、私に何か聞きたいことはあるかね?」

ラリーは余裕に満ちあふれた顔でグルジアノフと向き合った。グルジアノフは様々な難問をふっかけたが、悉くラリーのレベル3の英知の前にそれらは《All Sun’s Dawn/全ての太陽の夜明け》に照らされたかの如く解決した。ニコライはこの素晴らしいジャッジに感謝し、グルジアノフに迫った。

グルジアノフの敗北は誰の目にも明らかだった。

「・・・くそっ」

彼の口からあらゆる怨嗟に負けぬ呪いの言葉が迸る。ニコライは勝利を確信していた。

そこで事件は起こった。

グルジアノフはいきなり立ち上がると、《Ball Lightning/ボールライトニング》よりも素早く、ジャケットの内側から、拳銃を取り出すと、ラリーに向かって発砲した。
それはラリーに命中し、ラリーがドンという音と共に倒れた。ギャラリーから《Bloodcurdling Scream/血も凍る悲鳴》があがる。その悲鳴を聞きながら、

「これでジャッジはいなくなった」

グルジアノフが言った。

「・・・デュエリストの風上にも置けないヤツめ」

ニコライが憤怒に体を震わせ、口から言葉を絞り出した。
しかし、次の瞬間、驚くべき事が起こった。

ラリーがいきなり立ち上がり、素早くグルジアノフを押さえつけたのだ!

グルジアノフのみならず、その場にいる誰もが何が起きたのかわからなかった。偉大なるプレインズウォーカーが《Miraculous Recovery/奇蹟の復活》でもキャストしたのだろうか・・・

我に返ったニコライとギャラリーの数人がグルジアノフを押さえつけた。さしものグルジアノフも観念した。

そして、ギャラリーは不思議そうにラリーを見つめていた。

ラリーは胸ポケットからアレを取り出して言った。

「我々の誇りは暴力などでは傷ひとつつけることはできない・・・!」

それは、あの光り輝く《Balance》のカードだった。ジャッジにだけ配られる栄光の印。そのカードが銃弾を受け止めたのだ!それどころか、カードには穴はおろか傷ひとつ付いていなかった。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

ギャラリーが大声をあげ、狂信者のようにラリーに駆け寄った。そして、嫌がるラリーを無理矢理胴上げした。
ラリーは決して悪い気はしなかった。自分の力が役に立ったのだ。これほど嬉しいことはあろうか。

その嵐のような《Fervor/熱情》の中で、ニコライがポツリと言った。
 
 
 
 
「トーナメントに優勝したのは俺なんだけど・・・」
 

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