【ボリス&セルゲイR−第一話】

「ヘイ、ボリス。調子はどうだい?」
例のゲームパーラーで、ボリスは新たなエキスパンションの手応えを確かめていた。ボリスの盟友セルゲイは、ボリスに少し遅れてパーラーの扉を開けたのだ。
「まずまずだね、セルゲイ。このカードは私のために作られたと言っても過言じゃ無いね!」
そういって、彼が見せたのは、このセット唯一の混色カードであった。
「世界の幻獣ねぇ。5色を愛する君らしいね」
「そういう君はどうだい?セルゲイ」
「それは、見てのお楽しみだね」
そう言って、セルゲイはボリスの対面に座ると、懐から取り出した紙の束を彼の魔力の源をシャッフルし始めた。
そのころには、既にボリスは、己のデッキをシャッフル終えていた。

ボリスがコインを弾き、セルゲイがFaceを宣言する。
コインは裏を向き、ボリスが先攻となった。

「セット、Forest、タップ。極楽鳥を呼んでエンド」
ボリスは大いなる森を場に加えると、虹色に輝く鳥を呼び出した。それは流れるような美麗な尾羽根を振るわせ、ボリスの肩で翼を休めた。
そして、セルゲイの手番が始まる。
「ふっ。君の初手はいつも同じだな、ボリス」
「そういう君だって、Islandをセットしているだろう?」
青を愛するセルゲイと5色の使い手ボリス、二人は対極に位置するデッキを愛しながら、深い友情で結ばれている。
「ふふ、芸のない君とは違うのだよ」
そういって、セルゲイは、島をタップし、海よりも青いマナを得ると、幻視の血清をプレイする。一時的な魔力の増大は、セルゲイに未来をかいま見させる。セルゲイはライブラリのトップを手に加えると、さらに2枚のカードを覗き、うち1枚をボトムへ送る。

「僕には君の打ち砕かれる様が一瞬見えたよ!」
「Hahaha、それは君の見間違いさ!」

手番は代わりボリスは再び、森を場に加えると、古代の森の神々の力を得て、木霊の手の内をプレイした。節くれ立った大樹の腕が虚空から2種類の大地を引きずり出した。
ボリスは自分の場に山を、手札に沼を加えた。

「そちらはなかなか回りが良いようだな」
セルゲイは額に汗を浮かべながら言った。
「君には悪いが、私はいつだって最良の引きができるんだ」

セルゲイは自分の手番を始めると、山札からドローすると、少し悩みの表情を見せた。そして、島を場に加える。
影ひとつ無い大海に、ひとつふたつと島が浮かび上がり、それらが徐々に群島を形成していく。2枚の島をタップし、青いマナを得ると、セルゲイは1羽の鳥を場に加えた。それは物知りフクロウ。
フクロウはその英知を惜しむことなくセルゲイに分け与え、セルゲイは1手2手では無く4手先までの未来を見据える。

「ふふ、ボリス。この梟は君の3倍は賢いだろうね」
「そうかね。だが、0を3倍しても0には変わりないぜ!」
「Hahaha、君の知能はゼロか。確かにそのとおりだ!」

セルゲイは手番を終えると、ボリスは手札から、沼を加えた。
ブスブスと障気を沸き立て、竹沼がセルゲイの目の前に出現する。

「君は悩んでいたようだが・・・タップアウトとは君も甘くなったな!」

そういうと、ボリスは恐怖をプレイした。暗い闇から生まれる死の影は心弱きものを飲み込み、食らいつくす。フクロウは闇に飲まれ沈黙させられようとしていた。

「くくく、新たなエキスパンションにはForce of Willが含まれているのだよ!」
「な、なにっ」

セルゲイは手札から、攪乱する群れをプレイした。
秘儀の源たる、魔力の群れがセルゲイの手札の残響する真実を喰らい、糧とする。あっという間に、その何かの群れはボリスの恐怖から魔力を奪い、恐怖は音もなく崩れ落ちた。

「なかなかやるな、セルゲイ。さっきの表情はフェイクだな!?」
「さてなんのことやら」

ボリスは桜族の長老を場に加えると、手番の終了を宣言した。
セルゲイはカードをドローした。
ボリスを牽制することには成功した。しかし、彼が失った代償も少なくは無かったのだ。苦悶の表情を隠し、彼は有利を装った。
しかし、ボリスは彼が言うほどに馬鹿ではない。それはセルゲイが一番知っている。
セルゲイは場に氷の橋、天戸を加えた。島と島の間に、美しくも儚い氷の細い細い橋が架かった。それを見たボリスが言う。

「なんと美しいことか。宝石鉱山にも勝るとも劣らない」
「儚いものは美しい。それはDCのサクラを見ればよくわかるだろう?」
「ふふ、あれは夏を待たずに散ってしまうからな。しかし、その氷の橋は夏どころか、次のターンを待たずに崩壊しそうだがね」

セルゲイはフクロウを攻撃させた。ボリスはフクロウの爪で手傷を負う。
しかし、それは取るに足らない微々たるものだ。
セルゲイはターンを終了させた。

ボリスの手番が回ってきた。
ボリスは桜族の長老を攻撃に参加させ、セルゲイのライフを削り取った。
そして、手札からすきこみをプレイする。
激しい突風がセルゲイとその領土を襲う。ボリスの宣言通り、儚い氷の橋が突風の前に潰えようとしていた。しかし、それを黙って見ているセルゲイでは無い。

「マナよ、失え!」

一喝と共に、島から大いなる青の魔力を得たセルゲイはマナ漏出をプレイする。とたんにボリスから魔力が失われ、抜け出した。すきこみを維持できなくなったボリスは舌打ちと共にすきこみを墓地へと送る。

「ボリス!対抗呪文を失ったとはいえ、青は健在であることを君は身を以て知るだろう!」
「そういう君こそ、スリヴァーの女王を上回る恐怖に怯え死ぬさ!」

ボリスは手番を終え、セルゲイが手番を始める。
セルゲイは沼を場に加え、マナ基盤をより強固にしていく。

「神河謀叛が我々のプールに加えられたのを僕が指をくわえて眺めているだけだと思ったのかい?」

そう言って、セルゲイはフクロウに攻撃をさせた。

「ま、まさか・・・」

冷や汗が額から頬に伝うのを感じつつも、どうすることもできない自分にボリスは苛立ちを隠せなかった。フクロウはボリスの元へと飛んできた。彼を攻撃するために・・・

その瞬間、ボリスは自分の悪い予感が的中したことを悟った。
今まで、フクロウだと思っていたものは、黒い衣を纏ったネズミだった。大牙の衆の忍びが忍術によって場に馳せ参じたのだ。奴の幻惑の魔術に惑わされたボリスは手痛い打撃と共に、魔力を奪われる。手札を2枚失った、ボリスに残された手札は少ない。

「ふふふ、はっはっは。ボリス、君のデッキはもはや切り刻まれる運命だ!」

セルゲイは勝ち誇り、手番を終えた。

しかし、ボリスに残された手札にはセルゲイを蹂躙するに
十分な悪意の存在が眠っていた・・・!

[続く]

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