夕輝と怠惰なる勤勉者
2004年11月14日 ShortStory【怠惰なる勤勉者】
そこには、立派なソファーが置いてあった。人間の王族が使うような立派なヤツだ。
そのソファーに深々と身を預ける男が居た。そいつは、鼻提灯をふくらませて、豪快に高いびきをかいている。
その顔は目鼻は整い、筋は通っていて、絶世の美男子といったところだ。彼に見つめられて頬を染めない女性などいないだろう。その美男子が鼻提灯と高いびきを友にソファーで居眠りしているのだ。なかなか想像できる情景ではない。
その部屋の扉がノックされる。
初めは普通のノックも次第に大きく激しく扉が揺れて壊れそうになりそうになるまでになる。そこまでなって、初めて男は起きた。扉を開けると彼の部下が居た。部下は言った。彼の上司が来ている、と。
彼は部下に上司をこの部屋に通すように命じると、再びソファーに深々と腰を下ろした。彼の上司がこの部屋に訪れるまでに、彼が再び夢の底へと落ちることは彼にとって難しくも何ともなかった。
「・・・相変わらずだな」
部屋に入ってきた上司はそう呟いた。
部屋は多くの装飾品で飾られ、机は大理石だ。そして、人間の王族でもなかなか使わないだろう、接客用の素晴らしいソファー。もっともこの男は自分のためにそのソファーをこの部屋に入れたんだろうがな。
そのソファーにはその男がまた高いびきをかいていた。
上司は、その男を大声で起こした。正確には、彼は大声でなければ起きない。
「なあ、一応、私は君の上司なんだが、そうやって上司を鼻提灯で迎えるのはいい加減やめにしないか?」
彼は、まあいいじゃないか。と言った。どっちの立場が上かこれではわからない。当の上司は諦めて、立ったまま―そう、この部屋に例のソファーは一人分しか無いのだ!―話を続けた。
「曙の明星が、君の力を欲している。彼の力となって欲しい」
「それは命令か?」
「いや、彼の頼みだよ。この世界で最も君が適任だ」
「そうか。まあいい。ヤツには借りもある。ひと肌脱いでやろう」
彼はそう言うと、上司と共にこの部屋を出て行った。
上司は思った。この世界の誰もが恐れるだろう曙の明星、唯一なる赤き竜に恐れを抱かないのは彼ぐらいなもんだろう、と。
実際、この怠惰の皇子はこの自分のにさえ、敬意をちいとも払おうとはしない。それが彼らしいところであり、彼らしくないところである。
先ほどまで、自室のソファーに腰掛けて居眠りをしていた彼は、今は壇上に立っている。見下ろす下には魔界の軍勢がひしめいている。それらは暁の明星ルシファーによって選ばれた、神の軍勢と戦う者たちである。
壇上の上に立った彼は、魔界全体に響かんと思うぐらいの大きく、そして威厳ある声を張り上げた。
「諸君、何も恐れることは無い。諸君らは曙の明星、唯一なる赤き竜の剣として選ばれたのだ!諸君だけではない、魔元帥たる私も諸君と共に戦うのだ。諸君らが恐れるものは何もない。偽の栄光で飾られた天界を叩きつぶすために、諸君らは真の輝ける存在と共に戦うのだ!立てよ諸君!」
大音声の演説が広場に響き渡る。そして、その演説以上に大きな歓声が沸き起こり、軍団の士気はいやおうにも高まり、弾けんばかりとなる。
演説台の裏で、その指導者たる曙の明星ルシファーは、演説者の上司である魔王ベルゼブブと共にいる。ルシファーは言う。
「・・・本当にヤツは凄いな。流石の私でも扇動に関しては彼には勝てる気がしない」
「それはそうでありましょう。彼は容姿、声質、そしてしゃべり方まで全てアジテーターとしての素質は完全でありましょう」
「何か、ヤツに礼をせねばならんな。強い軍団を編成することは私でもできるが、強い軍団を最強の軍団にできるのはヤツだけだ」
「それなら、ソファーを贈ると良いでしょう。あいつはすることがなければ、四六時中ソファーで居眠りをしております。この間など、半月ほどソファーから動かなかったらしいですからな」
「考えておこう」
舞台裏で二人が話してる間にも、偉大なる扇動者、魔元帥の演説は続く。が、もう誰も魔元帥の演説など聞こえなくなっていた。軍団があげる歓声にかき消されてしまっていた。魔元帥はその任務を果たしたのだ。
堕落の使徒、怠惰や堕落することにかけては勤勉な彼の名はベリアル。無価値の名を冠する偉大なる扇動者である。
そこには、立派なソファーが置いてあった。人間の王族が使うような立派なヤツだ。
そのソファーに深々と身を預ける男が居た。そいつは、鼻提灯をふくらませて、豪快に高いびきをかいている。
その顔は目鼻は整い、筋は通っていて、絶世の美男子といったところだ。彼に見つめられて頬を染めない女性などいないだろう。その美男子が鼻提灯と高いびきを友にソファーで居眠りしているのだ。なかなか想像できる情景ではない。
その部屋の扉がノックされる。
初めは普通のノックも次第に大きく激しく扉が揺れて壊れそうになりそうになるまでになる。そこまでなって、初めて男は起きた。扉を開けると彼の部下が居た。部下は言った。彼の上司が来ている、と。
彼は部下に上司をこの部屋に通すように命じると、再びソファーに深々と腰を下ろした。彼の上司がこの部屋に訪れるまでに、彼が再び夢の底へと落ちることは彼にとって難しくも何ともなかった。
「・・・相変わらずだな」
部屋に入ってきた上司はそう呟いた。
部屋は多くの装飾品で飾られ、机は大理石だ。そして、人間の王族でもなかなか使わないだろう、接客用の素晴らしいソファー。もっともこの男は自分のためにそのソファーをこの部屋に入れたんだろうがな。
そのソファーにはその男がまた高いびきをかいていた。
上司は、その男を大声で起こした。正確には、彼は大声でなければ起きない。
「なあ、一応、私は君の上司なんだが、そうやって上司を鼻提灯で迎えるのはいい加減やめにしないか?」
彼は、まあいいじゃないか。と言った。どっちの立場が上かこれではわからない。当の上司は諦めて、立ったまま―そう、この部屋に例のソファーは一人分しか無いのだ!―話を続けた。
「曙の明星が、君の力を欲している。彼の力となって欲しい」
「それは命令か?」
「いや、彼の頼みだよ。この世界で最も君が適任だ」
「そうか。まあいい。ヤツには借りもある。ひと肌脱いでやろう」
彼はそう言うと、上司と共にこの部屋を出て行った。
上司は思った。この世界の誰もが恐れるだろう曙の明星、唯一なる赤き竜に恐れを抱かないのは彼ぐらいなもんだろう、と。
実際、この怠惰の皇子はこの自分のにさえ、敬意をちいとも払おうとはしない。それが彼らしいところであり、彼らしくないところである。
先ほどまで、自室のソファーに腰掛けて居眠りをしていた彼は、今は壇上に立っている。見下ろす下には魔界の軍勢がひしめいている。それらは暁の明星ルシファーによって選ばれた、神の軍勢と戦う者たちである。
壇上の上に立った彼は、魔界全体に響かんと思うぐらいの大きく、そして威厳ある声を張り上げた。
「諸君、何も恐れることは無い。諸君らは曙の明星、唯一なる赤き竜の剣として選ばれたのだ!諸君だけではない、魔元帥たる私も諸君と共に戦うのだ。諸君らが恐れるものは何もない。偽の栄光で飾られた天界を叩きつぶすために、諸君らは真の輝ける存在と共に戦うのだ!立てよ諸君!」
大音声の演説が広場に響き渡る。そして、その演説以上に大きな歓声が沸き起こり、軍団の士気はいやおうにも高まり、弾けんばかりとなる。
演説台の裏で、その指導者たる曙の明星ルシファーは、演説者の上司である魔王ベルゼブブと共にいる。ルシファーは言う。
「・・・本当にヤツは凄いな。流石の私でも扇動に関しては彼には勝てる気がしない」
「それはそうでありましょう。彼は容姿、声質、そしてしゃべり方まで全てアジテーターとしての素質は完全でありましょう」
「何か、ヤツに礼をせねばならんな。強い軍団を編成することは私でもできるが、強い軍団を最強の軍団にできるのはヤツだけだ」
「それなら、ソファーを贈ると良いでしょう。あいつはすることがなければ、四六時中ソファーで居眠りをしております。この間など、半月ほどソファーから動かなかったらしいですからな」
「考えておこう」
舞台裏で二人が話してる間にも、偉大なる扇動者、魔元帥の演説は続く。が、もう誰も魔元帥の演説など聞こえなくなっていた。軍団があげる歓声にかき消されてしまっていた。魔元帥はその任務を果たしたのだ。
堕落の使徒、怠惰や堕落することにかけては勤勉な彼の名はベリアル。無価値の名を冠する偉大なる扇動者である。
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